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「十代の蹉跌」 [poem]

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ペンキの剥がれた郵便受けが
ブロック塀にしっかりと据えられている。
鍵がかかったままの
「暗がり」の箱の中に
過去になっていった忘れたままの「蹉跌」が詰まっているのだ。

そして
ぼくの郵便受けには
二通の手紙が差し戻されたままになっている。
「宛先人不明」
差し出したのは
十代の終わりだったころ。
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それは
住所の違う二人の「緒夢」宛て。

もう会えない、二人の緒夢へ

ささやかな人生の織り糸に「緒夢」というペンネームの二人の女性がいた。
二人ともぼくに詩を送ってくれたが、
ひとりはもう生きてはいない。
もうひとりは消息不明。

■もう生きてはいない『緒夢』へ

もういなくなってしまった「緒夢」と、強制的にさよならしたのは「緒夢」の方から。
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君は、ぺろりと「自殺」してしまった。
なんで、どうして、
最高に幸せだったはずなのに。
うん、最高に幸せだったからか、ここを逃すと後は悲しみ。
今なら可能性の中で死ねるから。
「緒夢」君と出会ったのは秋の入り口の大通公園だった。
ぼくは、ガリ刷りの製本した薄い詩集「私集」を売っていた。100円。
君は旅行者だった。
すぐに打ち解けて意気投合。
「どっこ」でスパゲッティ食べて、
「B♭」に連れて行ったっけ。Jazzは小気味よくぼくらを包み込んでくれたね。
どうしてだったか、
演劇部の後輩が釧路の灯台でウィスキー飲んで寄りかかったまま凍死した話をしたんだ。
どうしてだったんだろう。
君がきっとそれを引き出すように死ぬことを話題にしたんだと思う。
だから、そんな話になったんだ。
まさか、まねして死のうとするなんて思っても見なかった。

そして、君はスケッチブックに連絡先を書いてびりりとリングから破いてくれた。

「手紙くれる?
手紙書くね。」

まだ、時代は携帯もパソコンも無かったころ。
それで、さよなら。
君は、東京へと帰っていった。
再会して半年もしないうちに見失ってしまった。

2015年05月14日19時03分06秒.jpg

■年長の詩人『緒夢』へ

名前も変えてしまったあなたは、
兵庫へ帰って行ったきり消息はもう分からない。

あなたと会ったのは札幌オリンピックの年の冬。
けっこう雪が多かった。
当時はまだ、歩道の除雪がままならなくて
でこぼこの雪の上を歩いて行き
繁華街を外れた、心地良い喫茶店で友人たちに紹介された。

感性の豊かなあなたは
ぼく、および僕らを魅了してしまったね。
そして、
ぼくへの詩を載せた
詩集を置いて
みんなの前から
「かまいたち」みたいに、いくらかの切り傷を残して
消えてしまった。

十代の蹉跌。
ゆっくり振り返ることもなく
いや、
郵便受けの鍵を失くしても
探そうとせずに来た。

空き缶に溜めた写真を整理しながら想う。
このまま
忘却の淵へ流し込み
頭(こうべ)を上げようと。

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nice!(12)  コメント(4) 

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コメント 4

salty

痺れる時代感。シラケはじめた世代の僕には気の利いたコメントをできません。。
by salty (2015-05-16 22:17) 

sigedonn

> saltyさん、コメントありがとう。
いえいえ、いつもあなたの写真と短文には舌を巻いています。
古さだけは年の功で(笑
by sigedonn (2015-05-17 00:02) 

cafelamama

青春の蹉跌。
二人の「緒夢」宛ての手紙、興味深く拝読いたしました。
by cafelamama (2015-05-17 11:09) 

sigedonn

> cafelamamaさん、ご無沙汰です。
だいぶ体調も戻ってきているようで何よりですね。
十代後半から二十代は「蹉跌」だらけなので・・・。
by sigedonn (2015-05-17 12:46) 

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